ソエマツ沢ソエマツ岳南西面〜中の川神威岳北東面(04年度沢例会A)

 

ソエマツ岳南西面直登沢〜ヌピナイ上二股〜中の川奥二股〜神威岳北東面直登沢〜ニシュオマナイ一般道

2004年7月29〜8月1日

L金澤弘明 大原成雄

 

7月28日

 事前情報とは違い林道入り口は施錠されていた。
後続するC・Dパーティーのこともあるので、浦河まで鍵を入手しに行くことにした。
再びゲートまで戻った時には既に4時を過ぎており、今日は林道終点までしか行けないだろう「仕方ないね」。

 ソエマツ林道に入るとすぐ、道は土砂崩れに埋められていた
「クソッ!」
暗くなりかけた林道をテクテク歩き、ヘッドランプを点ける直前、林道上にテントをはる。

 

1300日高発−1645車両デポ−1915林道上C0


 

7月29日

 早朝から林道歩き。
終点から広々とした河原を進み
404m二股まで1時間。
を巻く。
404から50分で出合いとなったがどうも様子がおかしい。
もしやと思ったが、やはり進み過ぎてることが判明した。約1時間のロスである。

 8時45分、直登沢に入る。
すぐに小さいながら手強い滝が連続するようになり、先の困難さを予感させられる。
C570からC700までがこの沢の弟1核心部である。
10mを左岸から巻き、続く3段18mは1段目を直登し2、3段目はそのまま右岸を巻く。
この後2〜5m位の釜持ちが連続し。
へつりと低く巻くことを繰り返すと8m滝。
ここで初めてロープを出し、大原がリードする。

 沢筋は極端に狭くなり岩の裂け目のようだ、突っ張りで進むと6mCS滝、その奥に10mの直瀑が現れる。
これはちょっと登れそうに無く、戻って右岸から高巻く。
懸垂無しで沢に戻り、2つ3つ手強いのをやっつけると沢は一旦ゴーロ状になって第1核心を終了する。
この先、ビバークサイトがあるか心配だが、先へ進むことにする。


 700m二股を左、C730で沢は右屈曲し、810m二股は15m程の滝となって左に折れる。
ここから第2核心部である。

 左岸の急な草付きから高巻くが、この滝の上にはさらに数段に分かれた函滝が続く。
さらにどん詰まりの右屈曲部までの間にはてこずりそうな函滝が続き、すぐまた高巻きさせられそうな様相だ。
そのまま高巻きを続けることにする。
結局C
87025mの懸垂で下りるまで、左岸をドカンと巻いてしまった。
1時間半を要した。
900の行き止まりになった左屈曲部、12m直瀑の下には釜の縁に出水で運ばれた堆石のテラスがあり、
この先は第3核心部となりビバークサイトなどありそうにない。
ここを今日のねぐらとする。

沢床から2mほど高く、2人用2張りが可能な水平のテラスである。
本格的な増水には耐えられないかもしれないが、背後の斜面に逃げ込めば何とかやり過ごすことができそうだ。
ビバークサイトとしては文句の付けようがない。


 時間もあるので大原が右岸水流脇を直登しTR形式にルート工作しておく。
ささやかな焚き火を囲み、明日の遡行時間とギリギリまで絞った酒と煙草の残り少なさに不安が募る・・・
「どう見ても足りないな」。

 

0510行動開始−0605入渓−0845南西面直登沢出合い−1225700m二股
1510900mBP(C1)−ルート工作

 


7月30日

 フィックスした滝を越えるとすぐに沢はまた細くなる。
8m左岸を直登し、両岸を突っ張る。
奥には美しいシャンツェ型の滝が水流を横に投げ出している。
右岸をへつり、左に曲がると大雪渓が現れここは上を行くしかない。
950m右屈曲部までいくと唖然とする光景が待っていた。

 沢の屈曲点で雪渓は一旦切れ、そこから先は見える範囲で3つに分かれた状態の悪い雪渓が沢を埋めている。
次に入る左股まで距離約
100m。
周囲はすべてシュルンドが開き、側壁は高く急峻だ。
雪渓の下には
20mはありそうな2段樋状の滝があって雪渓の奥に消えている。
ここは何とかなったとしても次は全く危険な代物で、さらにその次と、進むも戻るもできそうにない。
チラリと「敗退」の二文字が頭をよぎるが、進むしか道はない。

 雪渓の周囲をじっくり観察する。
沢は左にドッグレッグしているのでここは何とか右岸を行きたいところだ。
シュルンドは深いが一箇所だけ飛び移れそうな所があり、その上も何とか繋がりそうだ。

 大原がロープを付け、空身でファイト一発飛び移る。
15
m伸ばしザック2個吊り上げる。
さらに金澤が悪い草付きに
50mいっぱいロープを伸ばし、潅木帯に入ることができた。
急なブッシュ帯を
3040m右上し、C1050ラインを右上気味にトラバースしていく。
かすかな沢形を二つやり過ごし、ルンゼ状に出て、懸垂
25m。
このまま降り続けると
60m大滝の上に出られそうだが、すぐに次の滝が控えている。
ルンゼを横断し少しトラバースの後
10mの懸垂で沢に降り立つ。
ここはC
1110、この高巻きに2時間30分を要した。
「やれやれ、これでこの沢の核心も終わったな」。

 大休止のあと厳しさを減じた沢を進むと左カーブの先に再び悪相の雪渓が現れた。
雪渓は末端が崩壊しセラック状、雪渓本体は薄く下を行くのは危険すぎる。
ロープをつければ側壁を登ることはできそうだが、ブッシュ帯まで大高巻きになりそうだ。
しばらく迷ったが、取り敢えず左岸側壁を非常に悪いトラバースで雪渓脇まで行ってみる。
シュルンドの巾は
1.2m、雪渓の側壁は2.5m位だが垂直で飛び移れそうにない。
だが、もう戻ることは不可能だ、行くしかない。
シュルンドをコンパスいっぱいにブリッジング、後ろ足は側壁を離れそうにない。
雪壁にホールドをカッティングし、飛び移り様にアイスハンマーを雪壁に打ち込む。

 雪渓の上に這い上がり、フォローする大原のためにアイスハンマーを埋め、スリングをおろす。
「いいよ、来い」と言うと大原が「ロープをくれ」と言う。
長い付き合いだけど、めったにない一言だったな。
「止められないからな、絶対落ちるなよ」と意味の無いロープを投げ下ろしてやる。
これがパートナーシップと言うものさ?

 これで本当に核心部は終了した。
雪渓を降り休んでいると、今越えた雪渓の下面が剥離崩壊を起こした。
「ヌピナイといい、俺たちってツイてるね」

 延々と続く小滝を登って行くと1500mで水は枯れ、そこそこのブッシュを掻き分けると頂上と西峰のコルに出た。
稜線は雲の中、視界は
2030mだ。
既に4時、ピリカ北西面に継続するためには今日中に沢まで下降しておかなければならないが、望むべくもない。
「土岸パーティーに合流して中の川に転進しよう」。
明日、登り直さなければならないのは面倒くさいが、居心地の悪いピークに泊まるのは放棄し、
ヌピナイ上二股に向け下降することにする。

 国境を1480コルまで南下し、適当にガレを繋いで沢に向け下降開始。
獣道をつたうと小滝が連続する沢形となる。大事をとってC
126010mの懸垂をした。
あとは連続したナメ滝を快調にフリーで下り、ヘッドランプ直前に上二股に到着した。
テン場を決め土岸パーティーを探しに行く。
途中何回か無線機を出してみたが応答なく、突然暗闇からコールを掛けられて驚いたろうな。


 

0600行動開始−0930高巻き開始1150高巻き終了点C1110123513351270m二股−1545ソエマツP16051920ヌピナイ上二股C2

 

7月31日

 おじさん二人組は疲れていた。
土岸Pに遅れること2時間。
クソ暑いなかソエマツ岳に向かい登り返す。
腕時計の温度計で
36.2度!だと?
 昨日の下降では
1260m二股の左股を下りて来たのだが、今日の登りでは右股をとる。
こちらの方が沢形がしっかりしていたからなのだが、これが大間違い、源頭のヤブは左股に比べ長く深い。

 ソエマツピークは二日続きの雲の中、中の川への下降にかかる。
北東尾根に入り頂上直下、
1600mからブッシュに分け入る。
かなり濃いが下るにつれ沢形がはっきりしてくる。
1500から下は小滝の連続だ。

131010mの懸垂をする。
続いて左岸にフィックスロープがあるナメ滝を過ぎ、
1260は垂直の17m滝だが取り付きの下に雪渓があっていやな感じなので、
左岸をフリーで慎重に下り、途中からトラバースしてこれをかわす。
沢は一転してガレ沢となる。
左右の側壁は大崩落地となり、いわゆるバットランドの様相だ。
700あたりから徐々に河原状になり、C580から奇麗な函地形になって奥二股に到着する。

 先行した土岸Pは大岩から淵にダイビングして遊んでいた。
夜は盛大な焚き火を囲み、恵んでもらった酒に夜は更けていくのであった。

 

0830行動開始−1220ソエマツP124514151200m−1600650m−1640中の川奥二股C3

 


8月1日

 30分遅れで土岸Pを後追いする。
沢はすぐに狭い函状になるが低い巻きとへつりで進んでいく。
600付近で崩落間もない感じのアイスフォール状の雪渓をカッティングしながら突破する。
土岸パーティーが高巻き中に崩壊しのだそうだ。
627mにも雪渓があり、続いてゴルジュ状。
釜の向こうの左屈曲点から狭い函をつっぱりで進む。
660m辺りにある雪渓は右岸壁との間を通る。
680m二股、ここで土岸パーティーに追いつく。彼らは水に浸かって濡れネズミで遡行してきたらしい。
しばらく一緒に歩くがつられてこちらまで泳ぎだす始末。

 930m右屈曲部の3段25m滝で土岸Pは左岸を高巻くようだ。
我々は右岸水流脇を直登する。
あとは2〜
20m程の滝の連続となり、快適に登っていける。
1420で最終水場、沢形はだんだん不明瞭になりブッシュ帯に突入。
ガイドにはほとんどヤブ漕ぎが無いように記述されているが、実際は潅木とハイ松だ。
獣道を探し左上気味に行くと最高点の東側に出ることができた。

 頂上で1時間ほど土岸パーティーの登頂を待ち、記念撮影のあと下りにかかる。
悪名高き日高3大急登、ニシュオマナイ川一般道を痛い足を引きずり、暑さにうんざりしながら下る。
沢に出てからは長い河原、さらに長い林道跡を黙々と歩き、待望の神威山荘に下山することができた。


 

0535行動開始−0800680二股−12001420最終水場−1235神威P13501510ニシュオマナイ沢出合−1700神威山荘


 

参考グレード ソエマツ南西面 4級上〜5級下、ヌピナイ右股 1級下、

中の川ソエマツ北西面 2級(下降)、中の川神威北東面 3級上


 

予想外の林道状況と、雪渓に阻まれ進行が遅れ、ピリカ北西面への継続こそかなわなかったが、
全日程で晴天に恵まれ満足すべき成果をあげることができた。

ソエマツ沢南西面は水量こそ少ないが水流は細く絞られ、釜持ちの滝も多く直登は難しい。
側壁は高く急峻で高巻きも厳しく、日高を代表する豪快で困難な沢ではあるが、快適な登攀系の沢とは言い難い。
どちらかと言えば手のかかる高巻き系の沢であると言えそうだ。

一方、中の川北東面は適度な困難さの函と滝が連続し、いかにも日高らしい美しい沢である。
内容的にも直登、へつり、泳ぎ、高巻きとほとんど上級の沢にひけをとらない。
山脈を代表する遡行価値の高い沢であると思う。

 (金澤弘明)