南日高・楽古岳

 

コイボクシュメナシュンベツ川北面直登沢〜メナシュンベツ川南西面直登沢下降

2006年7月15〜16日

金澤弘明(単独)

 

沢シーズンに入ったというのに昨年秋以降、全く山に行っていない。
 こんなじゃ沢例会には行けないぞ、ということでプレの下見を兼ねて足慣らしに楽古岳に行くことにした。
 ルートは皆に人気のコイボクシュメナシュンベツ川だが、楽古の南西面のメナシュンベツ川も気になるところだ。
 記録を漁ってみると、基本的には小滝とガレらしく、途中の滝も巻いて通過できるようだ。
 困難さを予想させる記述はなかったので、芸のない一般道を下るよりは良いだろう、とこれを下降することにした。

楽古山荘には15日、夜1030分着、日高からちょうど180kmのドライブだった。
 先着者の車が5台ほど駐車していたが、既に就寝したのか小屋内は真っ暗だったので車中泊とする。


 

朝、外で声がするので時計を見るとまだ3時だ。
 いくら何でもでも早すぎるべ?
 このパーティーは4時に出発、結局目が覚めてしまった。
 さらにこの後、この早起きパーティーに起こされた話好きの単独行おじさんにつかまり、出発が送れて
535分。

林道跡から踏み跡をたどり、550m二股の小さな函滝辺りから沢らしくなる。
 
C600m10m滝は無理せず右岸リッジ状をたどり、C713mの先にはこの時期としてはやけに大きな雪渓がある。
 気温が低いせいかかなり硬く締まっている。
 
C760mで沢がS字状に屈曲する部分は雪渓が細くくびれ、巾2m、長さ3mほどの架橋になっている。
 厚さも
1.5m位しかないが半分氷化していて、「崩落しない!」との確信はあったが沢床まで10mはあり、
右下がりに捻れているので緊張しながらこれを超える。


 すぐに深い岩壁に囲まれた780m三股で、正面の中股は60mはありそうな滝。
 進む右股も約
20mの滝になっている。
 滝近くの雪渓は広く深く口を開けているので、少し戻り、左岸の少し狭くなったシュルンドを飛び越し、
20m滝の落ち口にトラバースする。
 ここから落差
80m位の傾斜の強い段状滑滝が見上げられ、その上にも滝が見え否が応でも期待させられる。
 少しづつ霧が深くなってきてなかなかの迫力だ。
 滝はホールドが豊富で容易に登られ快適だが、
C1100mで早くも源頭らしい渓相に変わってしまい物足りない。


 1120m1230m二股を共に右にとり、
草付き帯の中の流水溝をたどると
C1300mで真っ赤に錆びたドラム缶が踏み跡に食い込んでいるのを見る。
 いったい何故こんなところに???

 

薮漕ぎ無しで稜線上C1420mの踏み跡に出て頂上へ。
 視界約
30m、霧雨。
 この条件で未知の沢を下るの不安だが、「もし悪けりゃ巻くだけ」と意を決して下降開始。
 コンパスで南西を確認、最大傾斜線に向けてすね丈の牧草
()混じりのハイマツを漕ぐ。

先の視界が無い斜面を標高で250mほど落とすと沢形に出る。
 
C1090m20mの滝の後、小滝がいくつか現れるがいずれも容易に下れる。
 徐々に函が深くなる沢を下ると霧の先が急激に落ち込んでいる、「滝だ、でかいぞ!」
 非常に傾斜の強い滝で落差も
4050mありそうだ。
 霧で限られた視界の中、左岸壁は全て岩で巻きは不可能。
 右岸に大きなルンゼがあるが急峻な雪渓が挟まり、巻いたとしてもやはり下降できない。
 頂上に登り返すことも考えたが、それには少し下りすぎているようだ。
 落ち口からじっくり見下ろすと一連の弱点が見え、ホールドも見えている。
 「悪ければ登り返す」ことにしてクライムダウンを決意する。
 弱点を求め水流を2度3度と横断するが、岩はやや脆く、水の勢いと冷たさにめげそうになるが我慢のしどころだ。
 無事下りきり「沢はなめちゃいかんわ、もう二度とやんないもんね」と反省する。
 

やや難しい7mを下り、今にも落ちそうなスノーブリッジを走りぬけると、
C920mに再び大きな落ち込みがあり、落ち口には残置支点まである。

 恐る恐る覗きこんでみるが、大まかで弱点のない花崗岩系の岩でできた、
落差
3040mはありそうな垂直の滝で、持っている補助ロープと長スリングをつなげても半分くらいしか届くまい。

 ここも左右は見える限りモザイク状草つきの岩壁で、とても巻けそうにない。
「これは引返すしかない」とは思ったが、先程降りたあの滝を確保無しで登り返す気にはなれない。
 諦めの悪い性格も災いして、穴の空くほどじっくり観察する。
 すると左岸に、何とか繋がりそうなランペがあるのに気が付く。
 先には樺の若木があってロープも使えるかもしれない。
 真剣に、慎重に、常に登り返す意識をもってクライムダウンした。
 いや「目が吊り上っちゃった」というのが本音だったかな。

 

5日後くらいには危なくなりそうな雪渓を越えると、沢はガレた伏流になり一気にブタ沢化する。
 しばらく前から痛み出していた膝をサポーターとステッキで庇いながら、山荘に向け下山を続けた。

 

0535行動開始−0625 550m二股−0740 770m三股−0915楽古頂上09401215一般道尾根出合−1245楽古山荘

 

参考グレード 北面(コイボクシュメナシュンベツ川)2級、 南西面(メナシュンベツ川)2級上

 

メナシュンベツ川南西面直登沢は二つの大滝の突破が全てであり、他に困難な所は無い。
 詰めの藪漕ぎは標高差
250mほどもあるが、登るほどに背丈が低くなるので、
地図で見るよりは厳しくないだろうと思われる。

 下降には懸垂に備えロープを2本持つことを薦める。