知床半島縦走

【日程】 2003年3月14〜22日

【メンバー】L土岸(教)、小野(武)、田中(則雄)、伊藤(紀)

1.行程

【3/14−移動日】19:00札幌市内→20:00当別町→4:00羅臼町

別海町へ出張した際、雪に覆われた知床半島を見てもうた時からや。流氷に閉ざされた先っちょへ行ってみたいもんや…。北稜へ入会して2年と2ヶ月を経て夢が現実となる。当初計画から3週間遅れ。山行中止の危機を乗り越えての出発に胸が高鳴るが、先っちょへ行ける確率は3割ぐらいか。過去の山行報告を見る限り、好条件全てが整ったとして、縦走で5日、海岸歩き2日合計7日間行動日が必要になるとの読み。札幌からの移動を考えると予備日がなさ過ぎ。帰路の船利用も検討したが、流氷が残るこの時期、航行が不確実な上にそれなりの費用が必要とのことで諦めた。羅臼町の駐在所によると、交通機関があるはずの相泊から岬町の10kmちょっとが雪崩で通行止めで復旧の見通しが立っていないとか。なまら逆風ですな。とにかく知床岳まで行って、残り日数を考慮して突っ込むか否かを判断することにする。暖房のよく効く車で運転を交代しいしい地の崖を目指す。羅臼町の道の駅脇で幕営。



【3/15−1日目 5.2km】晴れ9:30熊の湯→11:10一息峠→13:10第一の壁→14:30P965→15:20P893北側C1

登山口の熊の湯前
車を熊の湯に最も近いホテルに預けて出発。重い…お決まりの感想を抱く。出発早々スキーを脱ぎ3回ほど徒渉した後、一息峠へ登る。春めいた陽射しの中、出発して初の登りでかなり汗ばむ。誰がつけたか、ほんま一息峠や。スキーを踏みしめながら高度を稼いでいくと、すぐ先に国後島、海には流氷が見えてきて、知床半島に来ていることが実感できる。ハイ松原辺りから先は夏道を離れて、P965まで稜線上を進む。
第一の壁から羅臼町方面を見る
低木に覆われて滑降できる状態ではないので、スキーを担いで降りる。めっちゃ重いし、膝まで雪に埋まるわでウンザリする。羅臼岳の見えるP893北側の雪平原にブロックを積み幕営。天気図は取れず。無線で上湧別町の根塚さんと定時交信する予定だが通じない。携帯も圏外。明日の好天を祈り19:30には就寝する。



【3/16−2日目 10km】晴れ5:15C1→7:35羅臼平→8:25羅臼岳→9:05羅臼平→11:00サシルイ岳→13:10南岳→13:45P1475北側湿地C2

3:00起床、5:00行動開始。薄暗い中に羅臼岳が見える。天気は良さそうだ。屏風岩の東側斜面を行くが、雪面は固く風紋もあるため丁寧に登る。羅臼平でザック、スキーをデポしてアイゼン装着し、羅臼岳へ。ピークからはサシルイ岳から東岳まで、これから縦走する白銀の主稜線が見える。ウトロ側に目をやると、紺碧の海と流氷のコントラストが美しい。来てしもた。先っちょ行くでぇ。しばし感動を楽しんだ後、デポ地へ戻り、スキーを担ぎ出発。重たい。骨がきしむ。三峰への斜面を登りきり平坦になるが、トップはスキーに履き替えない。サシルイ岳登りの手前でピッチを切る。この辺りから羅臼岳の方を振り返ると格別の眺めだったということで、後日、武さんと意気投合した。
羅臼岳を振り返る。
奮い立った元気で再び登りはじめるが、ほんまに重い。山行2日目で身体のきしみを感じていて、この先持つんかいな。縦走は精神の闘いであることを知る。知床言い出しっぺの教に弱音を吐く先はない。今日も、武さんと則さんの牽引力に甘えている状態やし。しかしまあ、利尻ペアは強いわ。ほんまに病み明けかいな武さん。スキーは担ぐために持ってきたんかと、北西からの強風に煽られてヨタつきながら稜線をいく。雪面は固く急であり、スキーの出番はない。左側は崖だが、飛び込んでも強風で戻ってきそうだ。南岳に着く頃には小休止での会話が減りはじめる。全員それなりに疲れているのだろう。P1475北側で武さんが幕営適地を見つける。時間は早いが、この先ルシャ山の手前コル辺りまで良いところはないだろうとの判断。設営していると天候が崩れ風雪が強まってきた。フライがバタつかないようブロックで密閉し、念入りにブロックを積む。天気図によると明日の天気は悪そう。明日は晴れだ!武さん予報は景気がいい。晴れそうな気がしてくる。風も強い。今晩は寒くなりそうだ。無線、携帯共に繋がらない。



【3/17−3日目 16.5km】雪のち晴れ6:15C2→6:55知円別岳→7:35東岳→9:40ルシャ山→11:05P564→12:00P367→14:10ルサ乗り越え→15:40コル404南西C3

5:00出発準備は整うが、ガスで視界が悪く風が強い。出発を見合わせてテントで待機する。停滞ムードが高まる中、陽が射しはじめる。武さん予報大当たり。風は強いが、出発して間もなくガスも晴れて気持ちの良い天気となる。陽に輝く硫黄山が眩しい。東岳を越えてルシャ山まで一気に高度を下げるが、相変わらずスキーは、ただの錘だ。紀に続き、今日からは武、教もスキーを引き摺っている。
スキーが重い。
ザックに縛るよりかなり楽だ。つぼ足で雪面を踏み抜くたびにイライラしながら、山に来てまで苛立つ自分に腹が立つ。 P564辺りで丸1日ぶりに板を履く。やはりスキーはこうあるべきだ。幕営に快適そうな魅力的な樹林帯を抜け、やせ尾根ゾーンに突入す。アイゼンとスキーの交互の履き代えにウンザリし、ピッチが鈍る我々の上空を大鷲が舞う。イライラが限界に達しはじめた頃、樹林帯に快適な幕営地を見つける。今日はブロック不要だ。無線(湧別)は相変わらず繋がらないが、携帯が通じる。根塚さんの声が聴けた。



【3/18−4日目 12.5km】ガスのち晴れ5:15C3→6:30P698手前→7:20P786コル→10:10P862コル→12:30P1062→13:20C4→14:10知床岳→14:40P1182北側沼C4

今日から後半戦。スキーを履いての出発だ。P783へは行かずP698手前からショートカットする。樹林帯の中、ガスで視界は50mぐらいか。コンパスをきり今回導入したGPSで方向を修正する。味気はないが頼もしい。P730辺りにさしかかった所で青空が見え始める。スキーを引き摺りながらの登りが続く。重荷を担いでのP1062急登はきつい。落ちたら止まりそうにない。
エビの尻尾
登りきると7〜80cmぐらいに成長したエビの尻尾が散在するほかは何も無い雪原が広がる。行った事はないが、地球外の惑星にでも来たような気になる。南側から見える知床岳はのっぺりと女性的だ。P1182北側沼辺りの窪地に半雪洞を掘って幕営することにして、空身で知床岳へ。東側から臨む知床岳は男性的だ。流氷に覆われたオホーツクの海が美しい。知床岬への主稜線が細っていくのが確認できてゴールが近づいていることを実感する。先っちょに着いたら流氷ロックで乾杯だ。知床岳を後にしてデポ地へ戻り雪洞を掘り始めるが、圧密された雪は硬くスコップでは困難だ。3ヶ所ほど試すが不可。仕方ないので天候が荒れないことを祈りブロックを積むことにする。次回があるなら雪鋸を持参したい。縦走路のこの辺りは、風を遮るものがなく、良さそうな幕営地が無いので悪天候時には居たくない場所だ。幕営地選定にはベテラン武さんの経験が光る。心強いし勉強になる。 今日は無線(湧別)、携帯共に通じない。



【3/19−5日目 15.2km】ガスのち晴れ5:00C4→6:15P1132→8:45ポロモイ岳→10:00P763→11:25ウィーヌプリ→13:05P516→14:20P412→15:45知床岬C5

ガスで視界の無いなかスキーを引き摺り出発する。西にルートを外すが修正し知床沼へ。ここからはスキーとアイゼンを交互に履き順調に進む。今日のメインディッシュは岬だ。P763手前からはスキーが活躍する。適度な斜面を下り時間を稼ぐ。ウィーヌプリを超え痩せ尾根ゾーンに突入。P602まで来ると先っちょがすぐ先に見える。とうとう着いた。着いてもいないのに、岬に着いた気になった土岸は感動と共に脱力感に包まれ、急に身体中に痛みを覚える。この後、痩せ尾根の下りでコケまくり疲れ果てまくる。岬付近に漁船が見えたでぇ。乗っけてもらえるのとちゃうか。幻まで見る始末。岬に到着したときは感動する元気も失い、寒い中、流氷ロックで乾杯する気にもなれない。鹿の後を追って、岬へ行き記念撮影。灯台下の林で幕営する。当山行中、今日が最も疲れた。気を抜いたのが良くなかったのだろう。食材も余ることが確実になったので、夕飯は贅沢に食らう。一晩寝たら体力は回復するはずだ。今日も無線、携帯共に通じない。

ゴールは近い
有名な灯台。
知床岬にて・・




【3/20−6日目 12km】晴れ5:45C5→7:00カブト岩→9:20念仏岩→11:30ペキンノ鼻手前7.4→14:00モイレウシ河口C6

漁船に拾ってもらえるかもという甘い期待と海岸歩きという安心感から、気持ち遅出とする。岬を目標に縦走が終了した後に、丸二日の歩きがあるのは精神的に辛いものがあるが、流氷を見ながらの海岸歩きも悪くない。カブト岩では海岸沿いを進むが、3mをへつれずルンゼまで引き返して高巻く。その先の念仏岩は流氷が岸に詰まっており難なく通過。海の上をスキーで歩けることに感動する。続くペキンノ鼻はちょいと高巻き難なく通過。メガネ岩を超え、剣岩まで来た所で絶句する。道ないやん。
流氷の海を徒渉。
3mの徒渉。靴擦れの素足で冬の海を渡る。4人の絶叫がこだまする。いい思い出が出来たと喜ぶが、その後、再び絶句することになる。今度は先の見えない徒渉だ。戻っても濡れるなら先に行くべし。海が浅いことを祈り先を急ぐ。今回は4人とも無言だ。早く抜けないと足がおかしくなりそうだ。紀がバランスを崩し腰まで水没。緊急事態。急遽モイレウシ川の河口で幕営し暖をとる。今日は無線、携帯のほかラジオすら入らない。明日は徒渉しないでいいように、干潮を考慮して1.4に照準を合わせた行動開始時刻とする。



【3/21−7日目 10.3km】晴れ6:40C6→7:30タケノコ岩→9:15 1.4→10:40観音岩→12:20相泊

流氷。
タケノコ岩では小巻き、心配していた1.4も無事、徒渉することなく通過する。武さんは岩場もスキーで歩く。SM3級の腕前には感服だ。観音岩の小巻きでは、崩れそうな3m程度の雪壁下降に緊張させられる。あとは、単調な海岸歩きだ。相泊から船は出ているだろうか、岬町まで10km歩かなければならないのか。不安を抱きながらも1Pで相泊に到着し、山行終了となる。道路は2日前に開通したらしい。船を洗っていたお爺さんにお願いして、トラックの荷台に乗っけてもらい、羅臼町まで戻る。



【3/22−移動日】7:00別海町→15:00当別町→16:00札幌市内

 別海の知人宅でお世話になり、中標津、美幌峠を抜けて帰札。



2.装備

通常のツアー装備と同様。


(1) 火気類

会所有のホウェーブスは重いので、MSRを則さん新規に購入。以下にMSRに関する記録を記す。重量は軽く、火力も十分であった。初日、火勢が上がらないトラブルが発生したが、それ以降、同様の不具合は発生しなかった。(火勢が上がらなかったのはタンクが満タンであったことが原因と考えられる。)一点注意が必要なのは、片付ける際に、タンクからバーナーをつなぐ管のガソリンがタレ落ちること。ロウソクの火に引火したら悲惨な事故につながりそう。ガソリンの使用量は、実績からみて1日・1名当り100ccが適量との結論。


(2) GPS

全般的に天気に恵まれたため活用の場面は少なかったが、ガスで視界のなくルートに不安を抱いた際に、現在位置の正確な把握が可能で、道迷いによる時間、体力のロスを無くすことができた。また、精神面の支えにもなり非常に有効であった。GPSを活用すれば、危なくない所なら、視界がなくても正確に行動することができるだろう。非常時にも正確な位置の連絡ができるし、保険で所有するのは悪くない。軌跡を後で確認できるのがまた楽しい。GPS貸してくれた前田さん、ありがとう。


(3) スキー

結局、羅臼岳からルシャ山を越えるまでの間は、スキーは荷物でしかなかった。ザックのスキーが風で煽られ辛い区間であった。ザックの腰紐にシュリンゲで結ぶのは担ぐより楽だったが、セットに時間が必要なのは欠点。ルシャ乗り越え前後の痩せ尾根はスキーとアイゼンの付け替え選択に悩む区間。履き代えに時間はかかるが、アイゼンのまま進むのは辛い。しかし、この先またアイゼン区間かといった具合。知床岳から岬までと、海岸歩きではスキーの活用で時間を稼ぐことが出来た。スキーを捨てたくなった時もあったが、有効であったと思う。


3.食料

(1) 夕飯
アルファ米5合、チョットどんぶり(ジフィーズ)、スープ、サラダ。チョットどんぶりは種類も多く美味かった。量も適当。
(2) 朝飯
棒ラーメン4食分+直径20mmの丸餅8個または雑炊。棒ラーメンは美味く、適量であったが、雑炊は腹持ちが悪かった。
(3) 行動食
土岸が常に食べることを心掛けた結果、1日で食した行動食はおよそ以下の通り。カンパン60g、フルーツグラノーラ50g、バナナチップ1/4袋(100円ショップ)、レーズン、ナッツ、黒糖少々、水1L。持参した行動食の半分を持ち帰ることになった。最終日まで元気に行動できたことを付け加えておく。


4.最後に

 天候に恵まれたことが大きいが、計画通りに遂行でき大成功であった。当初の計画より入山が遅れたことで、1日の行動時間が長くとれたことも幸いであった。岬からの海岸歩きも結構楽しく、船なんぞチャーターせんで良かったというのが正直な感想。(もうちょっと安ければ迷わず乗っていたと思うけど…)
相泊にて
メンバーにも恵まれた。ベテラン武さんの参加で肝の幕営地選定を無難にこなせたし、紀さんのおかげで空気は和んだし、則さんは相変わらず強く、その存在がなければ知床縦走は実現できなかった。ほんに、ありがとうございました。 また、計画を支えて頂いた大原(圭)さんをはじめとする北稜の皆さん、根塚さん、かもちょーさん、羅臼町駐在さん、オホーツク爺さん、ありがとうございましたー。 知床は楽しかったー。

記 土岸


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